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2012.09.05 かんちがい
『昔トーレに王ありき』というマンドリン曲がある。
作曲者は、コンラート・ヴェルキ。

学生時代だったか社会人になりたてのころだったか、演奏会プログラムに、ゲーテの詩をもとにした曲である旨の解説と、その詩の概要が載っていた。

昔、トーレに王がいた。
その妹は、死の間際、王に黄金の杯を与えた。
王は形見の杯を大事にし、宴の席では必ずその杯に酒を注いだ。
時が経ち、死期を悟った王は、全てを世継ぎに譲ったが、
妹の形見の黄金の杯だけは与えなかった。
断崖の上の城の広間で、黄金の杯に満たした最後の酒を飲み干した王は、
その杯を海中に投じた。
黄金の杯は、海底深く沈んていった。

うろ覚えだが、だいたいこんな感じだったと思う。

曲自体は重々しく、単独では「まあまあ好きな部類」くらいな感じだが、元になった詩の内容が素晴らしく、それと合致した曲調なのがたいへん良い、と思った。

兄妹愛というか、仲の良い兄妹の情愛が主題と言ってしまうには、じゃっかん重い内容である。

たぶん、この兄妹は、互いへの禁断の恋を自覚しながら胸の奥底に秘めたままそれぞれの職責を全うし、
しかしその思いを断ち切ることはできずに墓場まで持って行った。
互いの気持ちを確認する唯一の絆が、黄金の杯だったのだろう。

たいへん感慨深い内容である。

後年インターネットが普及した頃に、元々の詩の全訳を読みたいと思い、検索を試みたことがあった。
もしかしたら、その詩の元になった伝説なんかもあるんじゃないだろうか、とも思った。

ところが、「昔トーレに王ありき」で検索しても、まったくヒットしない。
マンドリン曲みたいなマイナーなもんではしょうがないかとも思うのだが、ゲーテの詩なのに何故?
曲名と詩の題名で、なんか違ったりするのだろうか?
当時はそれ以上追及するすべもなく、未解決のまま今日に至る。

それが今日、なにげなく思いつくままに曲名をググっていたら、以前に検索をかけたときには無かったある機能のおかげで元の詩にたどりつくことができたのであった。

「昔 トーレに」と入力したところで、

「もしかして : 昔 ツーレに 王ありき」

と、いう表示が出てきたのである。

ああ、そうか。トーレでなくて、トゥーレとかツーレなんだな、と思い、出てきた詩を読むと、

「王妃は黄金の杯を……」

なのである。

他にも、「妃は……」「お后は……」という訳もある。

どっから「妹」? 誤訳か?

それとも、もともと「妹」だったのが、差し障りが(げほげほ)あるから「妃」にしたのか?

と思いきや、森鴎外が定型詩にした文語訳

「妹は黄金の杯を 遺してひとりみまかりぬ」

を見て納得。

「いもうと」じゃなくて、「いも」なんである。
「女のきょうだいのうち、年下の者」という意味の現代語の「いもうと」じゃなくて、
「男性から見た親しい女性。妻・恋人・姉妹など」という意味の古語の「いも」。

いや、最初から全部文語だったら間違えねーから……。

というわけで、ゲーテの『ファウスト』に挿入された詩「ツウレの王」または「トゥーレの王」のテーマは、
「秘めたる禁断の兄妹愛」ではなく、「永遠の夫婦の愛」だったらしい。

それはそれで比翼の鳥、連理の枝、素敵な詩ではあるんだが、


最初の勘違いからワタクシが妄想した幻の詩の内容の方が、よりロマンチックだったりしないか?


……しないですか、そうですか。
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STINGがJohn Dowlandの曲を歌っているCDを発見して購入した感想なんぞを、本宅の掲示板の方でちょこちょこ書いてたんですが、ここにまとめておこうと思います。

ダウランドかバードの曲を弾きたいと思い、CDか、できたら楽譜がないかなぁ、と検索をかけていたときにこのCDを発見しました。

えええ~~~~っ??!!
スティングってあのスティングか~~!!??
ダウランドってあのダウランドなのかぁぁ~~~!!??

ってくらい、びっくりしました。

スティングは説明不要かと思いますが、ロック歌手だったような気が。
ジョン・ダウランドはルネッサンス末期の作曲家。
ヨーロッパ大陸では既にバロック音楽がはやりだしてたけどイギリスはまだルネサンス音楽が主流というあたりでしょうか、ものすごくおおざっぱに言って。
時代的には、シェイクスピアが活躍してた頃の方、といえばイメージがつかめるでしょうか。
この組み合わせにワタクシが受けた衝撃が多少とも伝わっていただければと思います。

共通点といえばイギリス人でミュージシャンということですが。
イギリス人でミュージシャンて、特にクラシックではあまりメジャーな人がいない感じですね。
パーセル(『ムーア人の復讐』など)
エルガー(『威風堂々』など)
ホルスト(『惑星』など)
……あと居るのかよ?って感じです。
ヘタしたらドイツからイギリスに帰化したヘンデル(誰でも知ってるのは『ハレルヤ』コーラスか?)が一番メジャーかも。

しかし、個人的には好きな音楽家が多いのです。クラシック・ポップスを問わず。
イギリスだから、ではなくて、この曲いいなと思ったらたまたまイギリス人の曲だってことが多いのです。
ヘンリー・パーセル、ジョン・ダウランド、ウィリアム・バード、
ビートルズ、レッド・ツェッペリン、キング・クリムゾン、デヴィッド・ボウイ、スティング
(こうして改めて並べると、クラシック系とポップス系で知名度にものすごい断層があるような気が……)

そして、
じつは大学生のとき、スティングのライブに行ったことがあります。
ダウランドの曲が入ってるCDを数えたら、10枚くらいは持ってました。
そんなわけで、そっこー買いです。(でも、2年前に出てたらしい……)
4/17にAmazonで購入。4/30に届きました。

2曲目がすごく好きな曲「Can she excuse my wrong」だったんで、まずそれを聴いたんですが、
聴いてものすごくびっくり。いやいやいや度肝を抜かれるとはこのことさ。
実は、この曲をスティング以外の人が歌ってるCDを3人分ばかり持っているんですが、他の歌手は全員美声だったからさ(そりゃそうだ……)。

こんな野太い声で歌われるこの歌をはじめて聴いたよ……。
ついでに言うと、ダウランドの歌でマイクがブレスを全部拾ってるのもはじめて聴いたよ……。

そんなんで、ダウランドが好きな人でも好き嫌いがはっきり別れるかもしれないCDです。
なんというか
スティングの側からこのCDにたどりついた人が聴くと、けっこうイケるかもしれません。
ダウランドの側からこのCDにたどりついた人が聴くと、評価が分かれそうです。
という感じ。
ワタクシはというと、買う前に試聴してたら買わなかったかもしれませんが、聴いてるうちにハマってきました。

エディン・カラマーゾフのリュート伴奏・独奏も良かったです。
最初、短いリュート独奏曲「Walsingham」で始まって「Can she excuse my wrong」をスティングが歌う流れがとても自然で良いのです。
曲と曲のあいまにときどきダウランドの書いた手紙をスティングがぼそぼそ朗読(ってのも変な日本語ですが)してるのもなんかしみじみ良かったです。
そのせいか、アーチリュートを持ったスティングの写真が、なんかダウランドとかぶって見えました。別に似てないんですが。

そうそう、スティングがアーチリュートなんですよ。
いや、彼は9割がたボーカルだけの担当なんですけど、リュート二重奏「My Lord Willoughby's Welcome Home(ウィロビー卿ご帰還)」と、ダウランドの手紙読んでる裏で弾いてるのが一回と、二か所だけアーチリュートの演奏を披露していました。
プロのリュート奏者であるカラマーゾフの演奏が素晴らしいのは当然として、スティングの演奏も良かったですよ。

「Flow my tears(Lachrimae)」邦題「流れよわが涙(ラクリメ)」は、けっこう有名な曲で、SF小説のタイトルにも引用されてますが、あらためてイイ曲だなぁ、と思いました。
その「ラクリメ」の他、「Weep You no more, sad fountain」とか「In darkness let me dwell」のような暗くて突き抜けてる曲は、クラシック歌手の美声(特に、古楽をよく歌う歌手の透明感のある声)で聴くとかなりウットリするものなのですが、スティングの独特の声で聴くとまた違った良さが感じられます。
たぶん、どっちも曲の本質を捉えているのだろうと思います。
あるいは、たいそう陽気な方だったというダウランドという人物の本質を。(「明るい光には濃い影ができる」というなんか格言みたいなコトバを思い出します。)
やっぱりスティングはすごいと思ったですよ。声の美しさとか歌の技術とかは(あるにこしたことはないが)最終的には枝葉なのかもしれません。

あ、でも、ヘンリー・パーセルをスティングが歌ってはいけないような気がする。
「Sweeter than rose」とか、彼の野太い声で歌ったらきっとぶち壊しだわ。
パーセルの曲はやっぱり透明感のある美声で技術も確かなクラシックの歌手に歌ってほしい。
相性の問題か?

美声の歌手よりスティングの方が合ってる感じがしたのが、「Fine knacks for ladies」でした。
「ご婦人用の素敵な飾り物、安くてえりぬきの素晴らしい新品!」って歌詞で、
行商人が客を呼ばわってる設定と思われる、たいそう明るい歌です。
たぶん、地面に布を敷いてアクセサリーや小物を広げ、「そこの綺麗なお嬢さん、これなんか似合うと思うよ」とか「ねえそこのお兄さん、彼女へのお土産にぴったりだよ」とか声をかけている感じでしょう。
図々しくてしたたかな……もしかしてフーテンの寅さんか?
「がらくただけど愛がこもっているのさ」とかスティングが歌うと、うさんくさい感じ満点で素晴らしい。

ところで、この歌手とこの作曲家の謎の組み合わせなんですが、スティングがダウランドの曲を「17世紀はじめのポップ・ソング」って言ったって書いてあるの読んでなんだか納得がいきました。確かに仰せのとおりで。
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